白くて時々茶色い
森の奥にきつねの村がありました。
その村は、昔からきつねだけが住んでいて、今は76匹のきつねに守られています。
村には先祖代々のきつねを祀った祠があり、「お稲荷様」と呼ばれていました。
76匹のきつねは、毎日交代で祠にお供物を届けています。
お供物を届けると、唄を謡って祈ります。
「こーん こーん おいなりさーーん おいなりさーーん」
今日は74匹目のきつねがお供物を届ける番でした。
74匹目のきつねがお供物を届けに祠までいくと、
なにやら遠くに白いものがぴょこりん、ぴょこりんと跳ねています。
74匹目のきつねは生まれてこのかたきつね以外のものを見たことがありません。
不思議に思ったきつねはお供物を祠の上に置くと、
白くてぴょこりん、ぴょこりんと跳ねるものの方に近付いていきました。
74匹目のきつねがどんどん近付いていくと、
白くてぴょこりん、ぴょこりんと跳ねるものには、ながぁい耳のようなものがついていることが分りました。
きつねはどんどんどんどん近付いていって、
白くてぴょこりん、ぴょこりんと跳ねる、ながぁい耳のようなものがついたものに、こう聞きました。
「もしや。あなたはなんじゃないな?」
すると、白くてぴょこりん、ぴょこりんと跳ねる、ながぁい耳のようなものがついたものは、
こう答えました。
「わしゃぁ、うさぎじゃ」
74匹目のきつねは、困りました。
生まれてこのかた、うさぎなんてものは聞いたことも見たこともなかったからです。
そこで、74匹目のきつねは、
白くてぴょこりん、ぴょこりんと跳ねる、ながぁい耳のようなものがついた、年をとったものに、
こう聞きました。
「もしもし。うさぎとは、なんじゃいな?」
すると、白くてぴょこりん、ぴょこりんと跳ねる、ながぁい耳のようなものがついたものは、
こう答えました。
「うさぎとはな、白くて時々茶色くて、ぴょこりん、ぴょこりんと跳ねる、ながぁい耳のようなものがついたものじゃよ」
74匹目のきつねは、ますます困りました。
白くてぴょこりん、ぴょこりんと跳ねる、ながぁい耳のようなものがついた、年をとったものがいったことは、
ほとんど見れば分るようなことだけだったからです。
見ても分らなかったのは、「白くて時々茶色い」ということだけでした。
74匹目のきつねは、その場を後にすると、考え考え祠まで戻りました。
「白くて時々茶色いってのは、どういうことだろう」
考えても分りません。
祠についたきつねは、ふと、気付きました。
おいておいたはずのお供物がありません。
「どこにいったんだろう」
74匹目のきつねはあたりを探しました。
すると、なにやら茶色くて丸いものが落ちているのを見つけました。
お供物が風に吹かれて地面に落ちて、泥がついてしまったのです。
きつねは、はたと膝を打ちます。
「そうか、白くて時々茶色いものってのは、お供物のことかぁ」
しかし、腑に落ちません。
「お供物は、ぴょこりん、ぴょこりんとは跳ねないし、ながぁい耳のようなものもついてないなぁ」
またまた困ってしまった74匹目のきつねは、一生懸命考えます。
でも、さっぱりわけが分りません。
きつねは、考えるのを止めると、家に帰って寝てしまいましたとさ。
お し ま い。